※ライニルライぱんつ騒動の続き。D2で配布したペーパーの再録です。
※簡単に説明しますと、酔っ払ったニールさんがライルさんの家に押しかけてストリップショーを繰りひろげた挙句ライルさんのぱんつを脱がすという話。こう書くととてもあたまわるそうですが実際あたまのわるいお話です。
※したがって恰好いい兄さんが好きなひとは見ないで下さい。




ぱんつ#03 刹ロクver.

 いつもどおりだった。
 ふらりと訪れたロックオンを子どもはほんの少しだけ眉を顰めた無愛想な態度で迎え入れて、ロックオンがあれこれ見繕った食材やら日用品やらを幾らか迷惑そうに片付けて、やはりこれまたロックオンの買いこんできたデパ地下今日のお勧めテイクアウェイ(台所を拝借して作ることもあるがそこは男だから毎度という気にはどうしたってならない)をメインに差し向かいで夕食を済ませて、そうしてすることもなくなった頃にどちらからともなく手が伸びた。
 ところどころ些細な相違はあれど、概ねいつもどおりの成り行き。
 そう、いつもどおりだったのだ。
 そのときまでは。
「……?」
 子どものくせに嫌になるほど器用な手指がシャツの下の肌をまさぐる動きだとか飽きずに莫迦みたいに繰りかえすキスだとかの合間にまったくもって嫌になるほど手際よくロックオンのジーンズのベルトを外しジッパーを下げて、だからロックオンも少し腰を浮かせて子どもの進める作業に協力して、それなのに。
 そこで唐突に子どもの手が止まったのである。
 だいたいがこの子どもは若さゆえかこういう機会に些か性急な傾向がある。待て、と制止の声を上げるのはいつだってロックオンのほうで、ついでにその希望が叶えられたためしは数えるほどもない。だから、行為の最中にロックオンが何もしていないのに子どもが手を止めるなどということは、これまではなかった。
「せつな……?」
 怪訝に思って名を呼べば、まだ序の口も序の口だというのにすでに声が上擦っていて少なからず自己嫌悪に陥る。思わずわれにかえって凹むのはこういうときだ。八つも年下の十代半ばでしかない子どもに手を出しているという事実。
 いや、そうではなくて。
「どうした、刹那」
 こんどは幾らかまともな声が出て、幾らか安堵しつつ圧し掛かられて不自由な上体を肩肘をつくことで起こしたロックオンは、そこに、かれのジーンズを半分ほど引き摺り下ろした状態で固まっている子どもを発見した。
 俯いた顔に癖の強い跳ねた黒髪がばさりとかかって邪魔をしているため、表情は窺えない。
「刹那? 具合でも悪いのか?」
 心配になって本格的に身体を起こそうとした、ときだった。
「…………ちがう……」
 子どもが低い声で呟いた。
 反応があったことにほっとして、次いで首を傾ける。違う? ……って、何が?
 答えは、訊ねるより先にもたらされた。きっ、と向けられた強いあかい視線とともに。
「パンツがいつもと違う」
「………………は?」 
 幼さを残した顔立ちに見合わぬはきはきと響きのよいその声で断言されて、ぱかっと口が開く。それから、はたと気づいた。
 昨夜はライルの家に押しかけたのだ。酒を呑んでしこたま酔っぱらっていた。といっても一晩で抜ける程度しか呑んでいないし、まあ、途中ちょっとばかり記憶の曖昧な時間帯がないこともないが、少なくともライルの家の玄関を入るまではきっちり憶えているから、CB的に問題になるようなことは何もない。いくら酔っていたってライル相手に自分が後ろ暗い身の上を明かすわけもないのだから。
 しかしともかく、泊まるつもりのなかったところで一泊したわけである。替えの下着など持っているはずもなく、ライルのを借りた。今朝になっていったん隠れ家に戻って荷物を拾ってこっちへ来たけれども、シャツはともかく、替えたばかりのアンダーをわざわざまた着替える必要性も感じず、そのままだった。
 それだけのことなのだが。
 それだけのことではあるのだが、厳然として今ロックオンは自分のものではない下着を身に着けている。そして、弟に借りた、という紛うかたなき事実かつ簡潔な説明をするには、自分たちの間には守秘義務という大きなハードルが横たわっていた。
(っていうかいつもの俺のかどうかなんて一目で判るもんなんですかどんだけ鋭いんだよおまえの観察眼……)
 途方に暮れて見つめかえした先、あかい両眸は不信感まるだしでじっとロックオンを睨んでいる。――たぶんこの様子では、下手な言い逃れは聞き入れてもらえまい。
 はあ、とうっかり溜息をついたら子どもの眼つきが鋭さを増して、ロックオンは慌てた。
「あのなあ刹那、言っとくがおまえが考えてるようなことは何もないからな!」
 ぱちりと、あかい眸が弾ける。
「俺が、何を考えていると?」
「え? や、だって、おまえ、」
「答えろ、ロックオン。おまえは俺が何を考えていると思ったんだ」
「う、」
 八つも年下の子どもに睨まれて身が竦む、だなんてみっともないったらありゃしない。しかもベッドの上で押し倒されてジーンズだって半分ずりおろされて半ケツだ。もちろんここまで至ったのは合意の上だからロックオンに子どもの何を非難する筋合いもないが。だがそれにしても。
 なんで大の男がたかが下着一枚のことでしかもこれっぽっちも疚しいところがねえってのにこんなにも責められなきゃならねえんだ!?
「――仕方ねえだろ、諸事情で隠れ家から離れた場所でガンダムもなしに一泊しなきゃならなくなって、だから、」
「だがこれは新しく買ったものじゃない、そうだな?」
「なんでそんなこと判るの!」
「……買ったんじゃないんだな?」
「…………やむを得なかったんだよ!」
 ここで叫ぶとかどう贔屓目に見ても開き直ってるよなあ。思いつつ、やけっぱちな気分が勝った。
「ちょうど昔の知り合いがすぐ近くに住んでたから、これ幸いと適当な理由を言って泊めてもらったんだ。ついでにシャワーと着替えも借りて、今朝早く礼を言って辞去してきました! CBのこともガンダムのことも一ッ言も漏らしてません! もちろん誓って疚しいこともしてません! ていうかおまえ俺のことなんだと思ってんだよ失礼な!」
 一気にそこまで捲くしたてて、ぜえはあと息を整えるロックオンを、じっと確かめるように見つめて。
 ふいっと逸らすように視線を落とした子どもは、
「うぇ……ッ!?」
 突然の動きに情けない悲鳴を上げてひっくりかえる男のことなど忖度する様子もなく脱がしかけのジーンズを下着ごと一気に剥ぐと、ぺいっと部屋の隅へと放り投げた。
「せ、刹那さん……!?」
「煩い」
「う、るさいっておまえ、」
「黙れ」
「う、」
 布一枚守るもののなくなった急所をしっかと捉えられてさすがに声を失ったロックオンを、ちらりと一瞥。
 低い声が冷静に、告げた。
「とりあえず、無断外泊の件はティエリア・アーデには黙っておいてやる」
「え、そこかよ……!?」


―――兄さんの記憶にないだけで疚しいことはあったかもしれません……ぬふふふふ。