※アレルヤ誕生祝いです。







「料理が好きなのか?」
 暇つぶしにネットサーフをしていたらロックオンが意外そうに問いかけてきて、アレルヤは困ったような微笑を浮かべた。
「とくべつ好き、というわけではないけど」
 たまたま辿りついたレシピ紹介のサイトが案外面白かったから、何となく見ていただけだ。 
「でも、いろいろな材料からまったく形も味も異なるものができていくのは、面白いと思いますよ」
「ふうん…」
「ロックオンだって自分で料理くらいするでしょう」
「まあ、必要にかられればやるし、それなりのものは作れるが」
 でも自分のためだけに作るってのはちょっと、味気ないし面倒でいやだ、とロックオンはグローブを嵌めた右手をひらりと翻す。
「余った食材の始末もしなきゃなんねえし、今は便利なパウチがいくらでもあるからなあ」
「レトルトばかりじゃ、飽きちゃいませんか」
「そのまま食えばな。多少の手は入れるぜ、自分の好みってのもあるし」
 所詮は男の手料理だけどな、と笑うロックオンに、アレルヤは僕だってそうですよ、と肩をすくめた。
「そんなに言うならさ、いつか作ってくれよ」
「了解」



 そういえば、いつだったか、そんなやりとりをしたことがあったっけ、と。
 目の前に差し出された袋の中身を確かめて、アレルヤはすっかり忘れ去られて埃を被っていた記憶を発掘した。
「料理の本…?」
「昨日、誕生日だったろ」
 スメラギが皆に話したので――「マイスターの個人情報には秘匿義務がある」とティエリアは顔を顰めたが、スメラギ曰く「いいでしょ、誕生日くらい。みんなでお祝いしましょ」だそうだ――、昨日アレルヤが晴れて成人を迎えたことをトレミーの中で知らない者はない。簡単なパーティもしてもらったし、皆から祝福の言葉ももらった。
 もちろん、ロックオンからも。
 怪訝そうに首を傾げると、ロックオンは「個人的に何かしたかったんだよ」と苦笑した。
「で、何かプレゼント、と思ったんだけどな。宇宙じゃすぐに手に入るものが限られてたから」
 昨日のうちにネットで注文して、今日、低軌道ステーションの書店に入荷したのをたった今、受け取ってきたのだという。
 今日はといえば、たしかロックオンは微調整を施したデュナメスの機体テストをしてきた、はずだ。まさか、とアレルヤは目を丸くした。
「……ガンダムで?」
「そう、ガンダムで」
 くく…っとロックオンは悪戯っぽく笑い、ティエリアには内緒な、と片目を瞑ってみせる。
(あきれた…)
 きっとイアンも加担していて、ヴェーダへの報告やハロのデータは適当に「整理」されているのに違いない。まったく、ティエリアにバレたら大事だ。ため息を一つこぼして、次いでアレルヤは、はにかむような笑みを浮かべた。
 ほんとうはレシピなぞ、ネットでいくらでもダウンロードできる。でも、何もかもがデジタル化されたこのご時勢に、あえて印刷された料理ブック、という選択がいかにもペーパーバックをこよなく愛するロックオンのプレゼントらしくて、それが嬉しかった。
 たとえ特別なものをもらったとしても、いつまで側に置いておけるとも知れない自分たちだからこそ。
「どうもありがとう」
 当世人気の若手シェフのレシピ集は、身近な食材で手軽に作れて、カラフルでバラエティに富んだメニューが評判が高い。これなら、見ているだけでも楽しいだろう。
「じゃあ、お返しにロックオンの誕生日には僕が何かごちそうしますよ」
 何でもリクエストしてくださいね、とアレルヤがリップサービスを披露すると、それまでにこにこしていたロックオンは途端に、しまった、というようなちょっぴり困惑した表情を見せた。
「…なんかマズイですか?」
 個人情報の秘匿義務、というティエリアお得意のフレーズが脳裡を掠める。ロックオンはそういうことに拘るほうではなかったと思ったが、あらためて思いかえしてみると、実はあんまり自分のことを話すタイプではないことに気づかされる。
 アレルヤの顔色がたちまち曇ったのを見て取って、ロックオンは慌てたように顔の前で手を振った。
「や、そうじゃなくて。気持ちは嬉しいんだけど…」
 三日後なんだ、俺の誕生日。横を向いてぼそりと白状する。アレルヤは目をぱちくりさせた。それから、何だ、と破顔した。
「かまいませんよ、そんなこと」
 ああ吃驚した、何事かと思うじゃないですか。照れ隠しのつもりか、そっぽを向いたまま頭を掻く人騒がせな同僚を軽く睨んで、
「なら、宿題です。三日後までに何が食べたいか、考えておいてくださいね」
 アレルヤは右の指を一本、ぴっと立てて宣告した。





―――gift
1日遅れアレ誕。閏年じゃないってことでプリーズ。マイスターズの中でなら、アレルヤがいちばん「マトモに」料理をするんじゃないかと思います。ロク兄はやればできるのに面倒がってやらないんじゃないかな。妄想だけど。
英国在住だった2000年当時はジェイミー・オリバーにかなりお世話になりました。そんなネタ。(そうか?)
20080228