クリスマス・パーティをしよう。
――と、言い出したのはクリスティナだった。
「いいっすね!」
リヒテンダールが即座に賛同したのはその所為もあったかもしれないが、それだけでもない。来るべき武力介入の日に向けて着々と準備を進めるCBの基地内では、その活動の極秘性のゆえに、慢性的に娯楽が不足していたのだ。そして当然のことながら、年若い面々の多い現場において現状にまったく不満を持たない者は、ほんの一握りだった。
ちょっと考えるように指先で唇を撫でたスメラギが、
「そうねえ、たまにはお祭り騒ぎもいいかもね」
本当に検討したのか怪しいほどの短時間で――正確には一瞬で――了承のサインを出すと、クリスとリヒティはやった!と歓声を上げ、おとなしいフェルトですらも表情を和ませたほどだ。
一方、ほんの一握りの筆頭と誰もが認めて憚らないヴァーチェのマイスターは、盛大に顔を顰めた。
「特定の宗教の記念日を祝うことが、われわれに相応しいとは思いませんが」
「あら、いまどきはそんなんじゃないのよ。宗教なんか関係なく、友人や親しい仲間、職場の同僚なんかとご馳走食べてわいわい賑やかに過ごして、今年もみんな元気でよかったって互いに喜びあう日なの。つまり、楽しければそれでいーのよ!」
びしっと人さし指を立てて朗らかに断言した戦術予報士の言い分を、
(要するにお酒を飲める機会だから逃したくないってことかな)
実に正しく解釈しつつ、賢明なアレルヤは口には出さない。
「商業主義に踊らされてるだけだろ」
「えーでも俺は好きっすけどね、フェスティヴシーズンの雰囲気」
「そうそう、いいじゃないの、それで少しでもみんなが笑顔でいられるんなら。日本なんてすごいわよー三百年も前からクリスマスをお祝いして一週間も経たないうちに今度はお寺や神社におまいりして願い事をするくらいなんだから」
「それは、ただの無節操って言いませんか」
「ああ…! そっか、今年は歳末バーゲンに行かれないんじゃない、大変…! どうする、フェルト?」
「私は、別に……」
わいわいと一気に盛り上がった場はしかし、
「くだらない」
大きすぎず、それでいてよく通る冷ややかな叱責にぴたりと静まりかえった。
「CBの理念は、戦争根絶です。われわれはそのために集い、ここにいる。浮かれた莫迦騒ぎなどにうつつを抜かしている場合ではない!」
その剣幕にびくりとクリスが首を竦め、リヒティは隣のラッセに向けて口の形だけで「こっわー…」とこぼす。
「ティエリア……介入開始はまだ先の話よ?」
「その考えが甘いというのです、スメラギ・李・ノリエガ。われわれのしていることは遊びではない」
それは、勿論そうだけど。その場にいたおそらく他の全員の心の声を聞いた気がして、スメラギは表情を改めた。
「ねえ、ティエリア。来年には武力介入が始まるわ。そうしたら、みんなで集まってパーティなんてする余裕はなくなるかもしれない。いいえ、それどころか、一緒に過ごす時間すら殆ど取れなくなるでしょう。でも、そういうときこそみんなが一致団結していなきゃならないのよ。だからこそ、仲間意識を育める機会は、疎かにするべきじゃないと思うわ。これは戦術予報士としての見解だと思ってもらってかまわないわよ」
ガラスのように他者を撥ねつけるまなざしが、無言のうちにスメラギを捉えた。スメラギもまっすぐ正面からその視線を受けとめた。
長い沈黙の果て、目を逸らしたのはティエリアのほうだった。
「…………ヴェーダが否定しないのならば、それでいい」
それだけ告げて、ピンク色のカーディガンはくるりと背を向けて部屋を出て行った。はあ――…っ、と盛大なため息が誰の口からともなくこぼれた。
ラッセが呆れと心配が綯い交ぜになった表情をスメラギに向ける。
「おいおい、いいのか、あれ?」
「いーのいーの、たまには遊びごころも大事。ヴェーダになんて訊かなくたって答えはわかってるわよ」
ひらひらと右手を振って肩をすくめたスメラギは、
「と、いうわけで。グリニッジ標準時二十四日の夜、クリスマス・パーティをやります! みんな、準備には協力してね」
あらためて高らかに宣言した。
「はーい!」
「おう」
「了解」
口々に返る答えに笑みを浮かべて、ふと、先ほどから一度も口を開いていない人物に気づく。
刹那は、いい。否、よくはないが、異論がない時には何も言わないのがこの子どもの常だから違和感はない。だが、その隣に立つ最年長のマイスターがこういう場面でまったく口を挟まないというのは、めずらしい。
「ロックオン、あなたはそれでいいかしら?」
シーグリーンの眸がはっとしたようにスメラギを認め、面喰らったようにぱちぱちと瞬いた。
「え? ……あ、ああ、おれは別に」
「そう? ならいいんだけれど」
気遣うようなスメラギの口調と眼の色に、ロックオンは苦笑した。
「ほんとうだって。ただ、ちょっと考え事に気を取られてただけだ。わるかった」
パーティだろ、異論はないぜ。そう答える表情はもう見慣れた陽気ないつものロックオンで、引っかかるものを感じつつもスメラギはその場は流すことに決めたのだった。
モドル<>ススム