隕石をくりぬいてつくられた基地にも、クルーの息抜きを目的に幾つか展望室が設けてある。そのひとつで、ロックオンは漆黒の宇宙に散らばる無数の星々を眺めていた。
地上の大気を透かして見るのとは違い、ちかりとも瞬かぬ光の屑。闇に灯るちいさな光は、記憶の奥深くでひとつの想い出につながる。
クリスマスという言葉の真の意味へと。
そして、その日の光景へと。
毎年、家族五人で食卓を囲んだ。寄宿学校へ通うことを選んだ双子の弟もこの日ばかりは帰省して、きょうだい三人、競うようにツリーを飾った。
ぱちぱちと暖炉の爆ぜる音が好きだった。外はつめたい雪が音もなく降り積もり止む気配もなかったが、部屋の中はとても暖かかくて、窓から見れば綿雪さえもふわふわと暖かそうな気がしたものだ。
母さん自慢のスモークドターキーは、五つの歳からエイミーが詰め物を手伝うようになった。ライルは重たいクリスマスプディングよりあっさりしたミンスパイの方が好きで、幾つも欲張っては父さんに窘められていたっけ。母さんが父さんのために用意したマルドワインをこっそり内緒で味見して、双子揃って叱られたこともあった。
幼い妹はキャロルの歌詞を間違えて覚えてしまったのがいつになっても直らずに、家族の笑いを誘った。
誰もかれもが笑っていた。きらきらと、いつまでも色褪せない過去。
あたりまえの、ありふれたそんな日常が、どんなにかけがえのない幸せだったのかなんて、喪われるまで気づきもしなかった――。
「クリスマス、か……」
グローブの指先がそっと、スクリーンの窓を撫ぜた。
宇宙には雪も暖炉も、拙いキャロルもない。何よりいまさら救い主などに縋る気のないロックオンにとって、その日はもはや365分の1日にすぎなかったけれど。
――みんなが笑っていられるならそれでいいじゃない。戦術予報士の言葉が耳の奥によみがえり、口元がちいさな笑みをかたちどる。そのとおりだと思った。
クリスたちが盛り上がっていた間、話を合わせつつも困惑した様子だったアレルヤ。
相変わらずの能面だった刹那。
ほんのわずかながら嬉しそうな表情を見せたフェルト。
猛反発したティエリア。
人とのコミュニケーションが決して巧くない年少の仲間たちに、楽しい時間の何たるかを少しは味わってほしい。あたたかな記憶はたしかに思い出せば胸を刺す鋭い痛みと無縁ではいられなかったが、それでも、今の自分がどんなに辛い時にも立っていられるのは、あのぬくもりを知っていればこそだ。
自分たちは家族ではないけれど、こうしてCBに集ったことにきっとなにがしかの縁があるのだと思いたい。
(っと、まてよ……?)
ロックオンはふと、考えこむ目つきになった。クリスマスといえば、もうひとつ欠かせなかったものがある。ラッセ曰くの商業主義の最たるもの、サンタクロースだ。
まだ幼かった自分とライルは、サンタよりも赤鼻のルドルフに会いたくて、真っ暗なベッドの中で夜中こっそり起きていたのだった。なのにいつのまにかふたりともうとうとしてしまい、はっと気づいたときには枕元にはもうプレゼントが置いてあって、盛大に悔しがる姿を両親が笑って見ていた。今思えば、ふたりともいつ自分たちが寝るか気が気ではなかったのではなかろうか。
(サンタが父さんだってわかったとき、エイミーにそう言ったら盛大に泣かれたんだよなあ……。で、母さんに睨まれて。ライルと慌てて、嘘だよサンタはいるよって訂正して……)
あれは、子どもの夢だ。御伽噺の体裁を借りて、すべての子どもに平等に与えられる夢。
願いは叶うと、想いはいつか誰かに通じると。
スクリーンに映りこむロックオンの唇の両端が、悪戯っぽく弧を描く。どことなく浮かれた足取りで向かったのは、戦術予報士のところ。
「ミス・スメラギ。ちょっと提案があるんだが……」
そして、きょとんとまばたきをした美女は、秘密めいて打ち明けられたその提案とやらを聞くやいなや、ロックオンと同種の笑みを口元に浮かべたのである。
モドル<>ススム